- 2022.12.31
- モニター体験会冬〜報告コラム〜
- 秋。黄金色に輝く穂を刈り上げ、天日に干し、人の手で脱穀され仕上がった、お米と稲わら。そしてこの冬、湯田川温泉旅館協同組合では次なるプロジェクトがスタートしています。それは、湯田川の温泉で芽出しされたお米を使った日本酒の醸造。12月中旬、秋にも実施したモニター体験会の第2弾を開催しました。 ちらちらと雪の舞う日、参加者の皆さんにお集まりいただいたのは、湯田川温泉“芽出し米”を使った酒造りを委託している、鶴岡市大山で400年以上の歴史ある酒造「渡曾本店」。大山は最盛期には50軒を超える酒蔵が軒を連ね、「東の灘」と称されるほど酒造りで栄えた街です。 モニター体験会は、普段一般の方は立ち入ることのできない酒蔵の醸造工程の見学から始まりました。お酒に使われるお米は、食事用のご飯と違い、炊かれるのではなく蒸しあげられます。大きな蒸し釜から、かじかむほど冷えた冬の空気に、もくもくと湯気が立ちあがります。蒸しあがったお米は41~42度程度に冷やされ、麴室(こうじむろ)へと移されます。この麴室で種麴をふりかけ、52~56時間かけてお米のでんぷんを糖化させ、麴が完成します。この日は、生成途中の麴も特別に味見させていただきました。 麴は完成間近なものほど舌でその違いを感じるほど甘く、干し米のよう。参加者の皆さんも初めての体験に、「日本酒の甘い、辛いは温度管理によるものなのか?」など聞いてみたいことがたくさん。実際の現場を体験しながら杜氏さんへ直接質問できるなんて、酒好きにはたまりません。次は、この麴と蒸し米、水から酒母といわれる酵母を作るもとになるものを培養する様子を見学。 通常多くは乳酸を添加して1週間~10日程で酒母を育成する速醸(そくじょう)という方法が使われますが、今回湯田川温泉“芽出し米”で作るお酒は、自然にある乳酸菌の発酵を促して酒母を育成する生酛(きもと)造りで行われています。この方法は酒母が出来上がるまでに3週間ほども時間を要すると伺い、益々期待が高まります。そして、ここで造られた酒母を仕込みタンクへと移し、麴と7~8度まで冷やしたお米を3回に分けて入れていきます。 もう仕込み部屋は日本酒のフルーティーな芳香がしてきて、普段日本酒を飲まないという女性の方々もあまりの良い香りに、「今晩はちょっと飲んでみようかな」と。こうして酵母(糖)がアルコールへ変わり、日本酒となっていく様子を見学し、目の前で瓶詰めされた出来立てほやほやのフレッシュな日本酒を、今晩の夕食の席へお持ち帰り。最後には絞られた後の酒粕も見せていただき、酒蔵の体験ツアーは終了しました。 続いて向かったのは、こちらも大山にあり北前船で栄えた「善宝寺」でのご祈禱体験。「善宝寺」は龍神様をお祀りしたお寺で、海の生き物を供養するための五重塔があることから、漁師や海に関わる仕事の方の信仰を集めていることで有名なお寺です。 このご祈禱、ちょっと他とは違います。太鼓が打ち鳴らされ、15名を超える僧侶が一斉に読経を唱えながら、経典を次々にめくるさまは、まさにエンターテインメント。不謹慎かも…と思いながら、ついつい互いに「面白かったね」と言ってしまいます(笑) 冷え切った身体を芯から温める昼食は、何と言っても中華そばでしょう! 訪れたのは、鶴岡市 三瀬にある中華そば処「琴平荘」。湾状の海岸線の隣に建つ「琴平荘」は、もともと旅館を営んでいて、海水浴の閑散期にラーメンを提供し始めたのがはじまりなのだとか。2002年に中華そばの提供をスタートすると、たちまち大人気となり、県内外から人が訪れる名店に。あまりの評判で、現在は旅館を廃業し、毎年10月から翌年5月まで、約半年間の期間限定で開くラーメン店として、県内外問わずたくさんの人に愛されています。 日本海を望みながら、温かいラーメンをいただく。きっと最高の時間になるだろうと期待を胸に車から降りると、なかなか前に進めない…!?そう、冬の日本海は強風注意!風で前に進めないというのは、滅多にない経験かもしれません。夏には青くキラキラと輝く海が、真っ白に。 岩に波が激しくぶつかった際に生まれる「波の花」という白い泡は、極寒の海の風物詩です。 中華そばは「あっさり」か「こってり」の好みを選べるのが嬉しいところ。注文してほどなく、熱々の中華そばが目の前に!スープは鶏ガラベースに、魚介の旨味がきいたどこか懐かしさを感じる味わい。ツヤツヤもちもちの中太縮れ麺が澄んだスープとよく合います。ひと口いただくと優しいスープが冷え切った身体に沁みわたっていくよう。寒い冬にぴったりな、至福の一杯をいただきました。 手指も温まり、お腹もいっぱいになったところで、午後からは秋に刈った稲わらを使ったしめ縄づくり体験です。今回は参加者全員で1本のしめ縄を作り、湯田川温泉の守り神“由豆佐売神社”の大イチョウに奉納します。由豆佐売神社は、芽出しにも使われる温泉の泉源となる女神を祀る神社。その温泉によって芽が出て、たくさんの実りを与えてくださったことに感謝を込めて、しめ縄を奉納し、また来年の豊作を祈ります。早速わら細工の先生にご指導いただきながら、縄をなっていきます。 はじめに藁を柔らかくするために、(今回は)ビール瓶を使い叩いていくのですが、一斉に叩く様子が可笑しくて、自然と参加者同士の距離も縮まります。スタッフも含めた12名中10名が縄ない初挑戦という、ちょっと不安なスタートでしたが、お互いに教えあい、コツをつかんだ時には歓喜しながら、手を動かすこと1時間半!一人一人が作った縄をつなぎ合わせると、立派なしめ縄が完成しました! そしてお待ちかねの日本酒を楽しむ夕食会。一品一品、地元の食材と鶴岡ならではの郷土料理を味わいながら、午前中、直に瓶詰めされる様子を見てきた日本酒に杯を傾ける、他では決してできない体験です。先程まで一緒にしめ縄を作っていた一体感もあり、参加者同士も見知った仲のように和やかなひと時でした。 その宴を締めくくるのが、湯田川温泉に江戸時代から続く道化かぐら“湯田川温泉神楽”です。軽快なお囃子にのって出てきた獅子が、まるで生きているかのように踊り舞い、しまいには、どうなっているのかビールの一気飲みまで披露して客席は大盛り上がり。そこへやってきた“ちょんべ“とよばれるひょっとこが、また驚くほど表情豊かに獅子へいたずらを仕掛けては、追いかけられ、客席まで巻き込んでひと騒動を繰り広げます。誰もがこんな神楽、今まで見たことがありません(笑)この神楽は例年、土用の丑の日に行われる「温泉清浄祭」でお披露目されている由緒ある神楽。 湯田川温泉の時間軸には、温泉とお米とそれを祀る文化が流れています。この度のモニター体験会では、その一部を体験いただきました。春。4月に入ると、また新しいお米の種が温泉を産湯にして芽を出します。こうしてご参加いただいた皆様が、第二の故郷のように、湯田川の時間の流れに会いに来て下さる、そんな体験を届けたいと思います。
- 2022.12.20
- 湯田川温泉神楽
- 「湯田川温泉神楽」は、湯田川温泉で永きに渡り親しまれてきた神楽で、その起源は定かではないが、盛んに演じられるようになって400年は経つといわれています。湯田川温泉の神様がまつられているという由豆佐売神社では、土用の丑の日にお湯が生まれ変わることを祝う「温泉清浄祭」が行われます。昔からこの日に湯治すると風邪をひかないといわれ、「丑湯治(うしとうじ)」とも呼ばれています。そして毎年、土用の丑の日とその前日の2日間、温泉街では湯田川温泉神楽が上演されます。 土用の丑を目前にした日の夜、湯田川温泉の奥にある湯田川温泉会館から、お囃子の音が聞こえてきました。コロナ禍においてずっと触れることのなかった懐かしいお祭りのお囃子。そのリズムに引き寄せられるように中に入ると若い人から幅広い年代の男衆が湯田川神楽の練習をしていました。その中心で音頭を取っているのは、湯田川温泉神楽保存会の会長の大井康博(72歳)さん。湯田川温泉神楽保存会は昭和30年に発足し、そのメンバーは現在20代から70代の25名で活動しています。メンバーは全てここ湯田川に住んでいて、親子で参加している人も4組います。 神楽の練習は基本的に月に一度。日中はそれぞれが仕事をしているので、練習が始まるのは、いつも夜の7時半頃からで12〜13人が集まります。かつては、2月に寒稽古を1週間していたこともあったとか。現在「湯田川神楽」の台本は、獅子舞、鳥刺し舞、吉原踊り、神楽囃子の4本。「とにかく愉快な神楽で、笑いが溢れるのはこの『湯田川温泉神楽』だけではないかな。昔は、温泉旅館を神楽がまわると、子供がずっとついてきたものだった」と大井さんはいいます。 「ちょんべ」と呼ばれる「ひょっとこ」を演じる村上光央さん(48歳)は28歳の頃から演じてきました。もの心ついた子供のころから湯田川神楽を楽しみにみてきたという村上さん、まさか自分が「ひょっとこ」を演じることになるとは思っていなかったそうです。それまで永きに演じてきた佐々木浩さんが高齢になり、大井さんにスカウトされたのです。やればやるほど、どんどん「ちょんべ」に自分自身が引き込まれていきました。「湯田川神楽はふざけたいやらしさ、邪道、品がないとかいわれることもあるが、一度みた人にはセンセーショナルで忘れられないはず」と村上さんはいいます。 三味線の伊藤俊一さん(45歳)も、やはり26歳の頃笛から神楽のメンバーに加わりました。今はまだ先輩である高橋吉和さんの姿をみながらその技を受け継いでいます。湯田川神楽のお囃子には実は楽譜がありません子供の頃から聞いてきているので、耳に音もリズムも残っているのだとか。 湯田川温泉入口の大提灯が灯る頃、頭に吉原かぶりの豆しぼり、腰に貝ノ口男結び、そして背中に大きく「湯田川」足元におかめとひょっとこの浴衣がなんとも粋な男衆が一人、二人と正面湯の前に集まってきました。一同は正面湯から由豆佐売神社へと向います。 由豆佐売神社に「湯田川温泉神楽」が神事として奉納されます。神主さんが見守る中、お囃子と共に凛とした獅子が舞います。そこにひょっとこの姿はありません。 神社での奉納の舞が終わると一行は、温泉会館に戻り陽が落ちるのを待ちます。夜8時になると正面湯の前には、どこからともなく、人が集まってきました。 獅子が豪快にそして凛として舞います。と、そのうち獅子が眠りにつくと、どこからともなくちょんべ(ひょっとこ)が現れます。そのふるまいは滑稽でその場の観客を一気に引き込みます。眠りから目覚めた獅子が豪快に舞観客のすぐ目の前にやってきます。笛、太鼓、しゃみせん、楽器同士の呼吸が獅子とひょっとこの舞を引き立てます。こんなにも楽しく、観客と一体となる神楽があるでしょうか。実は、このちょんべ(ひょっとこ)の悪ふざけは、災いを意味するもので、それを獅子が退治することで、無病息災を願うというストーリーになっているのです。 地域に祭りがあり、若者がそれを盛り上げているところには活気があります。地方の人口減少で祭り自体が減ってきている中、「湯田川温泉神楽」はここ湯田川温泉に暮らす人にも、訪れる人にも活気を与えてくれる存在となっています。湯田川温泉の湯も魅力ですが、この「湯田川温泉神楽」を一度は見ていただきたいと思います。
- 2022.12.12
- “芽が出る“かも??のご利益を願って
- 秋晴れの続いた10月最初の日曜日。 湯田川温泉旅館協同組合の新たなチャレンジ「体験ツアー造成」のための、モニター体験会が開催されました。青く澄み渡る広々した空に、収穫期の黄金色の稲。そよそよと涼風に揺れる稲の音。 この日集まっていただいたのは、鶴岡市にU・Iターンしたご夫妻や家族連れなど8名の皆さん。ほとんどの方が、初めての体験です。最近は田舎においても、稲を手刈りしたり、天日干しのための杭がけは、滅多にできる経験ではなく、地元のスタッフも稲穂を使って稲束をまとめる練習を事前に行ったほど。 先生は、田んぼの主の伊藤さんとその師匠、後藤さんご夫妻。お二人とも、湯田川に伝わる在来作物“藤沢カブ”の生産者さんでもあります。80歳過ぎの後藤さんご夫妻でも、なんと30年以上ぶりの手刈りの稲刈りということでしたが、そのお点前はさすがのもの。速さが格段に違います。 参加した皆さんも、稲を掴む時の腕の向きから束ねるときの手首の返し方など、一つ一つと習いながら和気あいあいと進めていくと、あっという間に稲束の小山ができ、田んぼに残るは落穂のみ。次は、この稲の束を順に杭に掛けていく作業です。 一杭に40把を掛けるということで、1把ずつ運ぶのですが、見かけ以上にずっしりとした重さに、ちょっと驚きました。20把を交互に積み上げたところで一旦紐で縛ります。これは、上に積み重なる分が下まで加圧せずに、風通し良く乾燥させるための先人からの知恵だと、後藤さんに伺いました。 この日刈った稲で4本の天日干し杭ができました。この後は2~3回ほど、上下を返しながら約1ヶ月間、天日で十分に乾燥させて、脱穀に至るそうです。完成までは、まだまだ先のお楽しみ。 となると、目下のお楽しみは、心地よくかいた汗を流し、ぺこぺこのお腹を満たすこと。お昼の献立も、湯田川温泉ならではの在来作物をふんだんに使ったお料理です。まずは、芋煮に使われている“カラトリイモ”を実際に畑で見て、収穫体験。カラトリイモはほっこりとした親芋を食べる里芋で、その茎も生や干したりして調理します。 子供たちは葉や芋の大きさに大盛り上がり。 大きな葉っぱを傘に見立てたら…あれれれ⁈(笑) 外での作業でかいた汗を、ひとっ風呂!というのも、温泉ならではの贅沢なところ。 さっぱりすっきりした後は、お待ちかねの新米と在来野菜の昼食です。 この日の献立は、 ・新米つや姫の塩むすび ・カラトリイモで作る湯田川風芋煮 ・萬吉ナスの揚げ出し ・藤沢カブ間引き菜のけんちん ・カラトリ(カラトリイモの茎)のだだちゃ豆和え ・湯田川孟宗の佃煮 ・藤沢カブの浅漬け と、どれもが湯田川産の在来野菜たち。 中でも、萬吉ナスや藤沢カブは湯田川でのみ栽培されている貴重な在来作物です。素材の味を存分に活かした昼食に、参加者の皆さんも大満足で、芋煮をお代わりする方も続出。子供たちもついさっき実物のお芋堀りをしたことで、なんだかお椀の中のお芋に愛着が(笑)皆さん口々に「美味しかった~」「昼食が素晴らしかった~」「ここでしか食べられない食事」と、たくさんの笑顔が見られました。 さて、題目の「“芽が出る“かも??のご利益を願って」ですが、この度稲刈りを行ったのは、湯田川温泉の温泉水を使って芽出しをしたお米。湯田川では日本で唯一、大規模にこの方法で「イネの芽出し」を行っており、孟宗と並ぶ春の風物詩となっています。 「温泉水で芽出し」から着想を得て、芽出し→芽が出る と掛け、学業やスポーツ、商売や出世などの開運ご利益がありますようにと祈りを込めて、これから湯田川温泉ならではのお米と温泉の物語を紡いでいきます。 乞うご期待!
- 2021.04.30
- 湯田川温泉の梅まつり
- 梅の花が咲く頃と聞いて、何月を想像するだろう。 神奈川県出身の私は、梅はまだ肌寒い時期に咲くものだと思っていた。 以前から季節のお花を見るのが好きで 水戸は偕楽園の梅まつりに出かけたのも3月だった。 湯田川温泉の梅まつりは4月の第2週に行われる。 内陸に比べて雪が少なく、海沿いのために 比較的温暖だと言われている鶴岡もしっかり東北なのだと実感する。 湯田川温泉の梅林公園は 温泉街を歩いていても目につかない場所にあって 何度も湯田川温泉に来たことがある人でも梅林公園って一体どこなんだろう? と思ってしまうような場所にまるで隠れているかのようにある。 何度もその姿を見たことがある人たちは 梅が咲き誇る季節の梅林公園は桃源郷のようだと口を揃えて言う。 梅林公園は、桃源郷だから隠れているくらいがいいのだと思う。 温泉街の入り口からまっすぐに進み 正面湯を左手にみてもまだまだ歩いていくと梅林公園の看板が見えてくる。 案内に従って曲がり、階段を登った先が梅林公園だ。 梅まつりでは例年、湯田川温泉の女将が抹茶を点てお饅頭とともに振る舞うという。 (コロナ渦の今年は残念ながらお茶会は中止) 白とピンクの可憐な花を眺めながら春の訪れを楽しもう。 梅が終わればすぐに桜がやってくる。 春の湯田川温泉は、美しいものに溢れている。
- 2021.04.20
- やわらかな湯で自分の揺らぎを解放する
- やわらかな湯で自分の揺らぎを解放する 歴史ある温泉地の開湯由来にはいくつかパターンがあります。武将や翁が発見した説、かの弘法大師が見つけたという説、動物が絡む開湯説。湯田川温泉はこの3つめにあたります。葦の原に降り立った白鷺が湯で傷を癒しているのを発見されたという湯田川温泉は、山形県内で5か所ある国民温泉保養地の一つでもあります。 小さな温泉街ですが訪れるといつも気持ちが知らぬ間にほぐれているのが分かります。組合源泉を共同利用し、各宿の浴槽は小さめのところが多いですが、だからこそ源泉かけ流しの良さが活きるというものです。 ナトリウム・カルシウム‐硫酸塩温泉の湯は源泉温度が42度。浴槽の湯口から注がれる湯は熱すぎずちょうどいい温度で、無色透明の湯はやわらかく、ゆっくりと浸かっていられます。それでいてしっかりと温まるのは、硫酸塩泉の傷や血管の弾力を回復に向かわせる作用からでしょう。 温泉成分による「温泉の定義」はあれど最終的に「いい湯」の定義は人により様々。泉質至上主義の人もいれば、小さなお子さんがいる方は、浴室や脱衣所は広くて清潔なことが最優先かもしれません。湯に浸かり、くぉぉ~っと思わず声が漏れる熱い湯が好きな人にとっては、もしかしたら湯田川の湯は物足りないかもしれません。でも私は、ふぉ~っと深いため息と共に体と、気持ちの奥まで溜め込んでいたものが解かれていくような優しい湯田川の湯が大好きです。 地元客にも湯田川ファンにも愛されている共同浴場「正面湯」に入った後、道を挟み参道が続く“正面にある”由豆佐売神社に一礼をする習慣が残っていたり(とはいえこの習慣はご高齢の方かな。)、共同浴場やお宿の浴室に注連縄が張られているのも、「当たり前ではない湯の恵み」に感謝の意があるからこそ。そもそも入浴は「湯垢離」という言葉があるように心身の禊をする行為でありました。毎日湯に浸かれるのが当たり前の現代と違い、湯治場の昔の方は、その貴重さを実感していたから浴室は清浄な場として結界の意味もあったのでしょう。 湯に性別は無いのに、体感として個人的に「湯田川の湯は女性らしい湯」だなといつも思います。自分が内観したい時などにゆるかやに手助けしてくれるような。それは成分的にはカルシウムの鎮静効果もあるのかもしれませんが、もしかしたら、この土地の“氣”も関係しているのかな、と。怪しい体感の謎を一人で考えていたら、由豆佐売神社の主祭神は溝織姫命という女神様ですし、境内には乳イチョウの木もあるな、とおあつらえ向きの後付け理由まで出てきました。「水は方円の器に随う」という禅語がありますが、形が無くいかようにも姿を変える水、土中の奥深くより湧き出る温泉は、私達が生まれる前からの太古の土地の記憶を含んでいる。そうして、そのエネルギーを湯を通して頂いている。そう考えると、また新たな湯田川の湯の良さや湯浴みの楽しさが見つかりそうです。